
―― Lucifer’s Rose : for the Eternal Soul ――
雨はまだ 降り続いている。
森の奥、
道という轍を失った獣道を、
わたしは ひとり歩いていた。
靴底はぬかるみに沈み、
冷えた風が 濡れた外套の裾を持ち上げる。
すべての音が、遠い鐘のように滲んでいる。
……
ああ、あの館──
かつて誰かが「家」と呼んだ場所が、
霧の向こうに 影のように浮かんでいる。
崩れた屋根、
砕けた窓、
それでもなお、形だけは立っている。
指先で壁を撫でると、
ひび割れた漆喰が、まるで皮膚のように
ひそやかに わたしを拒んだ。
階段の途中で、
壊れた燭台に かつての光を思い出す。
その淡い残照の底に、
わたしはようやく、自分の傷あとを見つける。
――忘却の薔薇。
――ルシファー・ローズ。
燃えるでもなく、
枯れるでもなく、
ただ静かに 咲いていた。
雨のしずくが花弁を伝い、
闇の底で 微かに光る。
誰も知らない。
それでもなお 在るという誇り。
それを見つめながら、
わたしは思う。
失われたものは、すべてここに帰ってきたのだと。
風が、扉を鳴らす。
世界の終わりのように 静かに。
そして 私は、
その沈黙のなかで、
ひとつの祈りを胸に刻んだ。
――何も持たない者こそ、光を抱く。
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